バッチ博士が選んだ野菜~チコリー
東昭史
フラワーエッセンス療法の創始者であるエドワード・バッチ博士は、フラワーエッセンスの原料を選ぶときに、毒草や食用になる植物以外から探し始めた。毒草には毒草の、野菜や穀物にはそれぞれの役割がある。フラワーエッセンスとなる植物は、それらとは異なるもののなかにあると考えたからだ。
そんなバッチ博士だが、伝統的に野菜として利用されている植物もフラワーエッセンスにしている。それがチコリーである。
野菜としてのチコリーは、日本の家庭ではそれほどなじみがないかもしれない。だが、ヨーロッパでは葉をサラダにしたり、軟白させて食用にしたりする。日本では業務用のサラダに使われていたりするらしい。焙煎した根はコーヒーの代用になる。チコリーコーヒーは日本でも自然食品店やハーブショップで見かけるので、飲んだことがある人も多いと思う。
古代ヨーロッパでは、チコリーは呪術的な使われ方もしていた。古代ローマの博物学者プリニウスは、「チコリを丸のまま潰して取った汁をオリーブ油に混ぜて体に塗った者は、ますます評判がよくなり、欲しいものはよりたやすく手に入る」(大槻真一郎責任編集『博物誌』植物薬剤篇p.21)という。またヘルメス文書の『草木の諸徳について』には、日の出の太陽に向かって太陽神ヘリオスを召還し、チコリーの液汁を顔に塗って「われに恩恵を与えたまえ」と祈願すると、その日は一日、すべての人々に愛されるようになると書かれている。
チコリーには他人から愛され、評判がよくなるという一種の魔力が宿っていると、古代ギリシア・ローマ世界の人たちは考えていたらしい。
この魔力はフラワーエッセンスのチコリーの性質にも反映されている。チコリーは他人からの評判や愛情と関係が深い。
チコリーのフラワーエッセンスは愛に見返りを求めて葛藤する人に用いられる。チコリーが役に立つのは「他の人が何を必要としているのかを、非常に気にかける」一方で、「自分の気にかける人たちが、そばにいてくれるのを強く望んで」(以上、『12ヒーラーズとその他のレメディー』)いる人だ。つねに誰かの世話をしていることを望むが、そのせいで本人の気持ちは安らぐことがない。ストレスが高じると自己憐憫に陥ることがある。「自分はこき使われ、顧みられず、誰も自分に気を留めてくれないと思う」(『12ヒーラーズと4ヘルパーズ』)ようになる。
このようなときに、チコリーのフラワーエッセンスは、愛の見返りに対する執着を手放し、無条件の愛、無償の愛を与えられるようにサポートしてくれる。チコリーを用いることで“愛の押し売り”をすることなく、「いつでも人の力になるつもりで、頼まれた時にだけとても控えめに手を貸」(「旅人の物語」)せる人になれるだろう。
このようなバッチ博士の解説を読むと、家庭でも、職場でも、あらゆる場面の人間関係において、チコリーのレッスンが大切であることに気づかされる。
古代ギリシア・ローマ社会の人々は、チコリーを太陽と結びつけた。太陽は地球上の生命を育む無償の愛の存在である。太陽からの恩恵を享け、太陽が与える愛に満たされ、感謝するときに、私たちも太陽のように愛を与える存在になれる。そのことを古代ギリシア・ローマの人たちは、そしてチコリーは教えてくれている。
参考
エドワード・バッチ(2008) 『エドワード・バッチ著作集』ジュリアン・バーナード編,谷口みよ子訳,BABジャパン.
プリニウス(1994) 『博物誌』植物薬剤篇,大槻真一郎責任編集,八坂書房.
2025年6月6日公開
東 昭史(あずま あきひと)
フラワーエッセンス研究家。エドワード・バッチの思想とエッセンスを中心に、日本の植物とエッセンスについても研究する。著書『バッチフラワー花と錬金術』、『ファー・イースト・フラワーエッセンスガイドブック』(共著)、『ファー・イースト・フラワーエッセンスの研究』、 『ファー・イースト・フラワーエッセンスの魅力』(監修)、ほか。
***
創刊号『虹とフラワーエッセンス』「天地をつなぐ虹の架け橋~ベイリーフラワーエッセンスから~」
第2号『豊かさへといざなう花の療法』「エドワード・バッチと豊かさ」
第3号『星とフラワーエッセンス』「夏至に花咲くスターチッスル」
第4号『フラワーエッセンスと薬用植物』「“Healing Herb” セントーリー」